2014年以前に掲載された記事です。

no185掲載
2014/12/10
  12月上旬から中旬にかけて流行するインフルエンザは、湿度20%前後の乾いた環境がウイルスの生存に最も適しているためで、“流感”とも呼ばれています。
 インフルエンザウイルスは空気中に漂って鼻やのどに侵入し、細菌の核から放出したRNA(遺伝情報を担うリボ核酸)を増幅させて新たなウイルスを作り出す。のどの痛み、39度台の発熱、頭痛や節々の痛みなどの症状がドッと現れるのも、このウイルスが急激に拡大するためで、インフルエンザ治療薬が発病後48時間以内の使用が原則という理由もここにあります。最近、このウイルスの増殖を抑制し、予防や症状悪化を抑える働きが期待される研究が報告された。秋田大学と大阪大学の共同研究で、DHAから体内でつくられる代謝物(プロテクチンDI/PDI)を与えたマウスによる研究。
 2009年の新型インフルエンザ(HINI)をマウスに感染させ、12時間前と感染直後にPDIを投与し、対照群と生存率を比較したところ、対照群の生存率は10日後は40%を下回るのに対し、PDI群は14日後も生存率100%で、PDIが予防的に働くこという結果が出ました。
 また、インフルエンザ重症マウスの生存率も対照群では11日後の生存率は0%、これに対し、感染2日後に治療薬と共にPDIを投与した群は100%改善。治療にも有効な働きが示されました。
 私は長い間、食による「予防医学に」携わってきて、病気にかからないことをめざしています。中でも私の専門分野、DHA・EPAが、ワクチンに相当する作用を持つ食品成分であることがこの研究によって証明されました。DHA・EPAの効能がさらに高まったわけでうれしい限りです。

no184掲載
2014/11/10
  天高く馬肥ゆる秋、食いしん坊、美味しん坊にとってはたまらない季節です。しかし、これは別腹などとつい食べ過ぎて、余剰のカロリーは皮下や内臓周辺に次々蓄積されていきます。体内では過食対策に懸命の努力がなされ、高くなった血液中の糖を下げようと、膵臓は必死に大量のインスリンを分泌し続けます。やがて疲弊し、ついには回復の難しい糖尿病(U型)を発症。初期には自覚症状がほとんどなく進行していきます。
 糖尿病の治療は、適切な食事と運動です。ところが国民の半数が糖尿病というハンガリーは、さらにある試みを行っています。国をあげてキクイモ栽培を奨励、一般家庭の食卓に毎日キクイモがのぼるように国が半ば強制したのです。
 その効果ですが、ハンガリー市民病院のアンゲリ博士らの臨床試験によると、U型糖尿病患者2年間の経過では、半減〜3分の1に減少、完治した例も多くみられたと報告されています。
 キクイモの主成分はイヌリン(60%)という水溶性の食物繊維で、ビタミン群、葉酸、パントテン酸が豊富で、カリウム、リン、カルシウムとマグネシウムは同量、ほかのミネラルも多種類含んでいます。
 イヌリンの食効は、人の消化管では吸収されず、水分を吸収してゲル状になり、腸内の糖や脂肪を一緒に巻き込んで体外に排出。そればかりか病気の原因となる活性酸素を消去する抗酸化成分も豊富。まさに、いいことづくめなのです。
 また、無理なく自然にダイエットも果たせそうです。

no183掲載
2014/10/10
 
 9月21日は「世界アルツハイマーデー」。厚労省の研究班(代表:朝田隆筑波大教授)の調査によると65歳以上の4人に1人は認知症とその予備軍。80〜84歳で約20%、85歳以上では40%を超えると推計されている。
 脳細胞が加齢とともに壊れ、萎縮して脳機能が低下し、新しいことが覚えられない、周囲で起こっていることが把握できないので正しい判断ができなくなるなどの症状をもたらす認知症。男女ともに平均寿命が80歳を超えた日本にとって、認知症はまさに長寿の落とし子だ。
 「明日は我が身」と心配する前に、まず予防対策を。その一つが魚食のススメ。25年前、「魚を食べると頭が良くなる」という発表で世界を驚かせた報告によれば、記憶機能を司る脳の海馬の部分にDHAが25%も含まれていることがわかった。ヒト臨床実験でDHA入りの魚ソーセージを食べた患者さんの認知症が改善したという結果も得られている。
 また奄美大島大和村今里(世帯数約200戸)は「天才村」といわれるほどに有能な人が驚くべき確率で誕生しているという。その秘密が、“ビンタ料理”で、カツオの頭を丸ごと塩ゆでして食べる習慣。特にカツオの目玉の部分が好まれて食べられてきたとか。
 ところが近年、魚介類の摂取は減少の一途、平成18年には肉類が逆転してしまった。厚労省は健康のためにEPA(中性脂肪を下げる)とDHAを合計して1日1g(鮭の切り身100g以上)の摂取を推奨している。魚を食べない日は、サプリメントでもいい。認知症にならないためにもぜひ習慣化してください。

no182掲載
2014/09/10
 
 世界中の6人に1人は太り過ぎというデータもあり、肥満は外見だけでなくメタボ、糖尿病、関節障害といいことなし。とりわけ、日本人は欧米人に比べて軽度な肥満でも糖尿病になりやすいとか。
 いわば、“百害あって一利なし”の肥満には、2つのタイプがあります。1つは洋梨型で、体の表面近くに皮下脂肪が付くタイプで女性に多い。もう1つはリンゴ型で、腹壁内の腸などの周りに付く内臓脂肪タイプ。
 もちろんどちらも健康に良いわけではありませんが、特に内臓脂肪型は、高血圧、糖尿病、血中脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い)を合併する、まさにメタボの“生みの親”。
 脂肪の構造は同じはず。それなのに、皮下脂肪は悪さをせず、なぜ内臓脂肪はメタボをつくるのか。それは、内臓脂肪からはサイトカインという悪玉因子が多量に出て、また脂肪分解後の代謝が異なるためなのです。
 健常者とメタボ患者を比較した全国労災病院の調査によると、メタボ患者は、@ストレスによって食べ過ぎや酒量が増える、A大食の頻度が高い、B女性の場合、ファーストフードをよく利用し、キノコや海藻をあまり食べない、C幼少時の体格を聞くと、「小学校6年生で肥満」と答える割合が非常に高く、しかも、「運動をしていた」が運動をしていない今でも過食癖が直らない、など。
 このような食行動がメタボの元凶。食育の重要性がここにあるのです。

no181掲載
2014/07/10
 
 総務省が昨年9月に65歳以上の高齢者人口が総人口の25%を超えた(ちなみに鎌倉市は29%)と発表しました。人間は100歳まで生きられる遺伝子を持っていると前号で述べましたが、長生きしても手助けが必要となると楽しさも半減します。そのためには健康寿命に影響を及ぼす病気にならないことが一番です。
 今回は、死因1位のがんになる時期を100年まで遅らせるという考え方で、健康習慣のポイント6つを紹介します。
@タバコは吸わない。
 発病リスクで 喫煙が原因は男性が3割、女性で5%というデータがあり、とくに副流煙の発がん性は自分でタバコを吸うより40倍も高い。つまり喫煙者のそばには近づかないことです。
Aお酒。
 毎日飲む場合、日本酒なら1合、ビールなら大ビン1本など、節度のある飲み方を。
B食事は偏らずバランスよく。
 塩蔵食品、食塩の摂取は最少限に。野菜と果物は1日当たり400gを目標にして不足しないように。熱いものは避ける。
C日常生活を活動的に。
 デスクワークの多い人は、毎日1時間程度の歩行と週1回30分程度のランニングを。
D適正な範囲内(BMIが男性21〜27、女性19〜25)の体形。
 太り過ぎより やせ過ぎの方が寿命を縮める。
E感染症の発がんリスクは2割もある。
 肝がんウイルス、胃のピロリ菌、子宮頚がんのヒトパピローマウイルスについて感染検査をし、適切な処置を。

no180掲載
2014/06/10
  去る5月26日、私は鎌倉市の平成26年度教養センター一般教養講座で講演を行いました。テーマは「魚食による体と脳と心の健康」です。そこで、この時の講義のエッセンスを3回に分けてご紹介しようと思います。
 人間は100歳まで生きられる遺伝子をもっています。しかし、それを全うする人はあまりいません。現在、日本人の平均寿命(死ぬまでの時間)は男性が79.55歳、女性が86.3歳。ところが生活に支障なく過ごせる健康寿命となると、男性70.42歳、女性73.62歳で、その差は、男性9.13歳、女性が12.7歳。つまり約10年間は不健康で過ごしていることになります。70歳過ぎると、何か病気を抱え、薬や介護の世話になったり、寝たきりの人もいる。これでは本人もご家族も不幸です。できることなら“ピンピンコロリ”で生涯を終えたい。人に迷惑をかけずに死んでいく。これが一番大事な生き方であり、死に方です。健康寿命を平均寿命に近づけるには、悪くなって治す治療医学ではなく、悪くならないようにする、悪くなる時期を遅らせる予防医学が必要です。これは食でしかできない。
 私の専門はヘルスフードサイエンスです。食による予防医学の普及により、“ピンピンコロリ”の人生を実現しましょう。
 次回から、その考え方、実践法をご紹介していこうと思います。

no179掲載
2014/05/10
  肉や脂肪の摂取量が多いと、心筋梗塞などの虚血性心疾患のリスクが高まる。
 ところが、ヨーロッパで肉や脂肪の摂取量トップのフランスが、虚血性心疾患の死亡率は最下位で、「フレンチパラドックス(フランスの逆説)」と言われている。
 その理由の1つに世界一のワイン消費量があげられている。
 日本でも一時期、赤ワインの含有ポリフェノールが、血管を損傷して動脈硬化を促進する活性酸素を消去する抗酸化作用があるということで健康飲料として注目されブームになった。
 最近スーパーフルーツとして脚光を浴びているアサイーは、南米アマゾンに自生する直径1cmほどの濃紫色のヤシ科の果実で、なんとポリフェノールが赤ワインの10〜30倍、抗酸化力も3倍ほど高い。
 さらに見逃せないのは、動脈硬化の元凶、悪玉コレステロールを減らすオレイン酸(オリーブ油の脂肪酸)が6割を占めるということ。ビタミンCやEも豊富で、ポリフェノールの抗酸化作用を増強。
食物繊維もゴボウの約3倍もあるので整腸作用で便秘対策にも。
 心臓と脳の血管を守り、疲労回復の健康成分もあるため健康志向の高い人やアスリートにも愛用され、アンチエイジングのスーパーフルーツとしても評価が高い。最近はコンビニで手軽に入手できる。

no178掲載
2014/04/10
  4月は卒業・入学、就職・転勤・退職と環境が変わる時期で、私たちの心身はストレスにさらされがちです。
 ストレスに対する体の反応について、ネコを使った有名な研究があります。檻に入れたネコにイヌ(ストレス)を近づけると、ネコは瞳孔を大きく開き(敵をしっかり見る)、毛を逆立て(威嚇)、足裏に汗をかき(いざというときふんばりをきかせる)、呼吸を荒くし(より多くの酸素と血液を全身に送るため気管支を広げ、心拍を高めて血圧を上昇)たのです。
 こうした反応の司令塔は脳で、内分泌系・自律神経系が働き、体を闘うか、逃げるかの臨戦態勢にもっていきます。
 ストレスが日常的に続き、体がいつも緊張状態に置かれると呼吸が荒く、心臓がトキドキし、不眠や不安が発生しやすくなります。
 ギヤバ(GABA/ガンマーアミノ酪酸)は、哺乳類の脳抽出液中から発見された物質で、脳血流を活性化させ、酸素の供給量を増やして脳代謝を促進する栄養成分です。また、神経伝達物質として、脳髄や延髄に多く存在し、抑制系の作用や血圧降下作用、精神安定作用や、ストレスからくる睡眠障害を抱える人に役立つ成分としても注目されています。
 ギャバは身近なところでは、発芽米や緑茶、紅藻類などに多く含まれています。
 一般食品だけでなく、健脳サプリメントとして、広く販売されているギャバ。その精神安定作用だけでなく、腎・肝機能の活性化や大腸がんの抑制作用等についても研究がすすめられています。

no177掲載
2014/03/15
  “人生50年”の時代だったら、ほとんどの人が経験せずに済んだ病気が、男性特有の更年期障害の一つの前立腺肥大症。前立腺は、前立腺液を分泌して精子の栄養、活動を盛んにする働きを担っているとともに、膀胱の出口をリング状に取り囲んで、尿の流出を調節する蛇口の役目も果たしている。
 前立腺肥大のメカニズムは、歳をとると男性ホルモン(テストステロン)の分泌量が低下し始める。すると、前立腺は生殖能力を維持するために必死で過剰な増殖を促し肥大化するため尿道が押し潰されるため、尿がスムーズに出なくなる。頻尿、排尿困難、残尿感などの症状がそれだ。QOL(生活の質)は下がるが、これらの排尿障害さえ改善できれば、体に害はなく、前立腺肥大症からがんに発展することはない。
 ノコギリヤシ果実のエキスは、前立腺肥大を促すジヒドロテストステロンの生成を抑制し、さらに受容体となってジヒドロテストステロンが前立腺細胞と結合するのを抑制する。
 こうした前立腺細胞の過剰な増殖にブレーキをかけるだけでなく、前立腺肥大の炎症(むくみ)を鎮める作用や、加齢で衰える膀胱の利尿筋を強化する機能もある。
 ヨーロッパでは治療薬としても認可されているノコギリヤシ果実は、QOL改善食品ともいえよう。

no176掲載
2014/02/15
  介護の必要がなく健康的な日常生活が送れる期間を指して健康寿命といい、日本人では平均寿命より10年短い。いい老後を送るためには、生活習慣病の予防が第一で、とくに、がんや循環器病など老化に伴う病気の予防が重要だ。
 なかでも、体と心の健康づくりにおすすめしたいのが“食による予防”。最近注目されているのが黒酢。なぜ、黒酢が健康に良いのか? 黒酢は約200年の間、日本の伝統的な健康食材として、調味料はもちろん飲料やサプリメントとしても広く普及している。その効用を科学的に実証するため昨年8月、日本黒酢研究会が設立され、私がその会長を引き受けることに。そして今年の1月、第1回の学術研究会を開催し、各方面からの研究成果が発表された。
 そのなかで生活習慣病関連のテーマを挙げると、●抗肥満作用(脂肪吸収阻害、脂肪組織増大抑制、吸収・蓄積した脂肪の燃焼促進、リバウンド抑制)、高血糖抑制、高脂血抑制、●老化促進マウスの認知機能低下を抑制、●ヒトの血液(赤血球)の流動性を高める血小板凝集能の低下(血液サラサラ効果)など、注目すべき発表がなされている。
 黒酢には、酢酸、ペプチド、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、クエン酸が含まれており、調味料として味を引きたてるだけでなく、減塩食にも活用できる。日本黒酢研究会は、魅力あふれる健康食材の黒酢の効用を、科学的にあらゆる角度からアプローチしてまいります。乞うご期待!!

no175掲載
2013/12/15
  伝統的な食経験があり、素材の良さを活かした健康食晶は人気が高く、中でも黒酢をはじめとする健康酢の市場規模は600億円を超えるとか。
 ストレスが強くなるとヒトは刺激的な強い味覚を求めるといわれるが、酸っぱさなどはその代表格。
 酢(酢酸)の酸味は、ぜん動運動を活発にしてお腹の中をきれいにし、血液の流れをよくする効果が知られている。
 3ケ月ほどの発酵で完成する酢酸に比べると、黒酢は発酵期間が1〜3年、タネ菌などは使わず、鹿児島県・福山町の山の斜面を使って玄米と米椛を壷の中に付いた微生物で自然発酵させたもの。
 200年以上続くこの伝統的な静置発酵によってアミノ酸が増え一般の食酢よりもかなり多い。とりわけヒトの体内では合成できない必須アミノ酸は9種類も含まれている。
 黒酢飲用者の中には元気になることを体感すると話す。このバランスの良いアミノ酸の摂取が、体全体の機能をアップさせるのではないかといわれている。
 血流改善、血圧上昇抑制作用などヒトによる臨床データも発表されており、生活習慣病予防効果が期待されている。
 家庭用保健食品として肥満や便秘、肩こり、冷え症などに効くとされてきた黒酢。来年の1月には抗肥満、高血糖、認知機能低下予防などについての研究者による発表も予定されている。この話は次回に。

no174掲載
2013/11/10
  コラーゲンは体内のさまざまな個所に存在し、体を構成するタンパク質の30%を占める。特に多いのが骨や歯、骨格筋を骨に結びつける腱、皮ふなどで、体を外の環境から守る、駆動させたりもする。
 皮ふでは真皮の70〜90%をコラーゲンが占めていて、肌のハリや弾力を維持している。皮ふの新陳代謝は、25歳ころまではおよそ28日周期で新しい肌をつくりだしているが、加齢とともに肌中のコラーゲンの創出が鈍くなって、古いコラーゲンの分解もされにくくなり、シワやタルミができやすい肌となってしまう。
 そこでコラーゲンの経口摂取によってヒトの皮ふにどのような影響を及ぼすかの臨床研究を試みた。対象は、40〜41歳の乾燥肌でタルミが気になる健常な女性20人で、吸収されやすい低分子化したコラーゲンペプチドを1日9g/8週間にわたって摂取した。
 実験により角質水分量および目尻シワの係数の変化を見ると、コラーゲン摂取群は水分量が高く、とくに目尻の水分量はプラセボ(偽薬)摂取群と比較し、4週間以降その差は大きくなった。
 目尻のシワや毛穴は、プラセボ摂取群が冬へ向かう季節変動と共にやや目立つ方向に進むのに対し、コラーゲン群はそのような変化は見られなかった。
 肌の拡大写真でも、溝の深い荒れた肌がきめ細やかな健康肌になっている。肌のバリア機能が改善傾向にあることが実験によって証明されたのである。

no173掲載
2013/10/10
 10月からインフルエンザの予防接種が始まる。また“老人の友”などといわれる肺炎もそろそろ要注意のシーズンに。こうした感染症対策には、体内に侵入してくるウイルスや病原菌(先物)と闘う力(免疫力)をアップさせることだ。
 呼吸や食事で大量の異物が体内に入ってくる危険ゾーンは、腸管である。腸管は栄養素の吸収ばかりでなく、異物もそのままとり込む。そのため、腸管の壁には腸管免疫と呼ばれる体の内部とは別の特別な組織がある。その中枢を担うのは、バイエル板細胞で病原体を食べて感染を防御したり、制がん作用もあるマクロファージやNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化し、侵入した異物(抗原)に対抗する抗体(IgA)を産生するなど免疫力の50〜60%が腸管部分に集中している。
 乳酸菌が腸管に達すると、バイエル板細胞は異物と認識してすぐに臨戦態勢をとる。腸管免疫を始め、ふだんは95%ほど休止状態といわれる白血球をも刺激して活性化させ、生体防御機能を高めるので免疫乳酸菌と呼ばれている。その結果、かぜやインフルエンザ、アトピー、肺炎などの病原菌に負けない体力をつくる。
 こうした乳酸菌の健康効果が明らかになるには、毎日1兆個の菌体(乾燥すれば1兆個あたり100mg〜1000mg程度)を摂取する必要がある。毎朝ヨーグルトを摂る程度ではとても足りない量だ。
 乳酸菌は生きた乳酸菌が働く整腸作用や感染防御にとどまらず、生きた乳酸菌でも死んだ乳酸菌でも同様に、乳酸菌の菌体(細胞壁)が重要な役割を果たす免疫の調整など、腸や身体を元気にすることもわかってきた。

no172掲載
2013/9/10
 私たちが食事をすると食物と一緒にさまざまな病原菌やウイルスが体内に入る。これらの細菌は胃の中では胃酸に、小腸では胆汁酸により殺されて激減するが、大腸では胆汁酸も少ないので細菌はもっとも多く棲みついている。
 この細菌は腸内細菌と呼ばれ300種類、100兆個もあり、健康増進に働く善玉菌、逆に病気の発現や悪化、老化の促進、腸内腐敗を助長する等の悪玉菌、そして普段は体に危害を与えないが場合によっては善にも悪にも寝返る日和見菌がそれぞれの縄張りを確保し、バランスを保っている。
 善玉菌の代表が乳酸菌で、乳糖やブドウ糖を分解して有機酸、とくに乳酸を多量に作り出す細菌を総称するもの。よく耳にするビフィズス菌もこの仲間である。
 まだ、日本が平均寿命で世界のトップに躍り出ない前の話。栄養学者がコーカサス地方の長寿村を訪ね、常食しているヨーグルトの乳酸菌が健康長寿の源ではと発表し話題を呼んだ。
 乳酸菌の健康効果といえば、まず消化を助け、腸の働きも良くして快便をもたらす整腸作用がある。さらに腸内細菌を乳酸菌優勢に保つと病原菌に対して強い抵抗性を持ち、排除する力もある。
 慢性的に胃の粘膜を傷つけるピロリ菌の活動も抑える。最近では、免疫機能のナチュラルキラー細胞を活性化する効果も注目されており、この話は次回に。

no171掲載
2013/9/10
 
 暑さが続き寝苦しい夜が多くなった。不眠、過眠、覚醒などの睡眠障害に悩まされる人がいかに多いかは、精神医学会が睡眠薬の依存性、習慣性の副作用には思いのほか怖いものがあると最近、注意喚起したことでもわかる。
 こうした睡眠障害に効果的とされ、多くの使用実績のあるのが薬用ハープ。
たとえば、
●寝入るまでの時間と目覚める時間の短縮に役立つと報告されているのが、オミナエシ科のバレリアン。リラックス効果もある。
●筋肉の緊張をほぐし、神経鎮静作用、リラックス効果などがあるホップ。
 ホップはビールの原料で、古くから安眠枕の素材としても用いられてきた。
 このホップとバレリアンを併用すると相乗効果があるとも言われている。
●脳の神経伝達物質として働き、脳血流を改善し、脳代謝を促進するのがギャバ。
 ギャバは発芽玄米や緑茶などに多く含まれるアミノ酸の一種。神経の興奮を抑え安定させる働きがあり、ストレスからくる睡眠障害に役立つ。
 特に、更年期特有の眠りやうつ気分を和らげるとの報告もあり注目されている。
●うつ病や神経症に利用され、ヨーロッパでは心の闇を照らす(サンシャインサプリメント)として古くから利用されているセントジョーンズワート(西洋オトギリソウ)。脳内神経伝達物質であるセロトニン、ノルアドレナリンの濃度を調節する作用があり、精神的ストレス障害や睡眠障害の改善作用、ジェットラグ(時差ボケ)、アルコール依存症と離脱症状に伴ううつ病状にも効果がある。


no170掲載
2013/7/10
 
 立つ、歩く、座るは人間の尊厳を守る基本的な動作。しかし、超高齢化社会となり、この運動に関わる骨、関節、筋肉などが衰えるロコモティブシンドローム(ロコモ)が要介護原因の1位となった。
 ロコモによる代表的な病気は脊椎管狭窄症や変形性ひざ関節症といった関節の障害である。特に変形性ひざ関節症は女性は男性の2倍以上だが、その特効薬はまだない。そんな中、注目されているのがグルコサミン(糖質とアミノ酸の化合物)で、健康食品ではコラーゲンに次ぐ人気のサプリ。
 ひざの関節は、大腿骨(太もも)と脛骨(すね)の継ぎ目で、立つ、歩くといった体重以上の力が加わるが、その日常動作の衝撃を吸収し体重を支えているのが軟骨である。この軟骨細胞を形成しているのがグルコサミン、コンドロイチン、ヒアルロン酸、コラーゲンなどで、私たちの体内で常に創られている成分だが、加齢に伴って減少し、再生しない。そのため何十年も毎日関節を動かしているとすり減ってきて、痛み出すことに。
 ところが、グルコサミン投与で、立っている時、運動時の痛みが改善されるという報告があり、コンドロイチンとの併用による相乗効果も期待されている。
 グルコサミンは薬ではないが、ひざだけでなく、体全体の筋肉や骨代謝の改善に、また、グルコサミンを飲むことによって元気が出て、QOLの改善にも寄与する。そんなヘルスフードなのである。



no169掲載
2013/6/10
 
 私が会長を務める「日本を健康にする!」研究会は、食品、健康産業の人々と、管理栄養士や栄養士などの専門家が力を会わせて、国民が健康かつ心にゆとりをもった生活を送れるようにQOL(生活の質)の向上をめざす目的で2010年にスタートしました。活動の中心は有識者の協力のもと、適切な健康・栄養食品の情報普及を図ることです。
 その一つとして我々が注目したのが「食育」の中の新しい分野とされる「おやつ」です。農水省の食事バランスガイドは、菓子・嗜好飲料を「楽しく適度に」と表現。これまでジャンクフード視されてきたおやつを、食事だけでは摂りにくい栄養素や栄養機能成分を摂取できる食品として光をあて、「機能性おやつ」プロジェクトを立ち上げたのです。
 おやつのメリットは、おいしくてたべやすい、機能成分の含有量も増やせるし、過剰摂取の弊害も抑えられ、しかも価格もリーズナブル。コンビニやスーパーなどで手軽に入手もできます。
 この機能性おやつの活用例を列記すると、@妊産婦には、胎児栄養と母体栄養の補給→葉酸など。A幼児・児童には、脳や体の成長に必要な成分強化→カルシウムやDHAなど。B学生には、部活や塾での効果を上げる→ファーストフードに栄養成分付加食品。C女性には美容補助、メタボ対策に。D高齢者には生活習慣病予防やロコモ対策など。
 地域特産物も栄養機能成分を付加してユニークな機能性おやつとして売り出せば、地域活性化にも貢献できます。こちらの方にも力を入れていく予定です。どうぞ「機能性おやつ」に注目を!


no168掲載
2013/5/10
 
 春は卒業・入学.入社・転勤など、ストレスがいっぱい。疲労がたまる季節。これらの疲労はその日のうちに解消しないと、確実に体に蓄積されていく。
 疲労の症状は、一般的には肩こり、だるい、眠れないなどだが、目が疲れる、目がかすむといった眼精疲労から始まることが多い。
 眼精疲労は、対象物へのピントを合わせる目の水晶体を調整する毛様体筋の疲労のことで、その軽減にアスタキサンチンが有効という臨床研究がある。
 アスタキサンチンとは、天然色素のカロテノイド類の一種で、イクラ、エビ、鮭等の赤橙色の成分のこと。予防医学的に役立つ食品として注目されているのはその強い抗酸化力だ。
 私たちの体は、食事で摂取した糖や脂肪がエネルギー源となっているが、その際、必ず発生するのが廃棄物としての活性酸素。この活性酸素が標的とするのは、酸化されやすい不飽和脂肪酸結合型のリン脂質でつくられている細胞膜で、活性酸素の集中攻撃によって連鎖的に悪玉の過酸化脂質に変化する。ところがアスタキサンチンには、この活性酸素を捕獲し善玉に変えるという消去作用があるのだ。
 さらにアスタキサンチンは、眼や脳の神経細胞の入口にある関門も通過できるので、眼や脳の機能を活性酸素から守り、正常に保つためには不可欠の成分とされストレス時代に期待が高まっている。

no167掲載
2013/4/10
 
 「機能性おやつ」という言葉をご存知でしょうか? おやつというのは、食事と食事の間に摂取する軽い食べ物で、仕事の疲れを取って気分転換するためにも有効な食習慣の1つと考えられます。
 最近の食事のトレンドは、一人で○○丼や○○ライス、パスタなどのワンディッシュというケースが多く、家族そろって、ご飯に数種類のおかずという手のかかる食事メニューは少なくなっている事が調査の結果から分かってきています。そんな時代に、食事だけでは摂りにくい栄養素や栄養機能成分を食事以外から摂取するチャンスとして活用できるのがおやつの時間です。
 例えば、このコラムでも以前お話したように、魚の摂取機会がどんどん減り、魚油の摂取量が減ってしまった結果、現在は全ての年代、性別において推奨量の1日1gのEPA&DHAを満たす事ができないという状況です。
 そんな現状を打破するために開発されたのがEPAやDHAが配合されたシリアルバーや飲み物、ヨーグルトなどです。これらの食品は、魚が嫌いな人でも抵抗無く大切な機能性油脂を摂取する事が出来るよう、高度な技術で製造されています。海外にも似たような商品はありますが、日本のメーカーの製品ほど、機能成分の含量が多く、且つ食べ(飲み)易い味に仕上がっているものはありません。 しかも、コンビニや通販などで手軽に買う事ができます。
 健康に役立つ物を、手軽に、楽しく、美味しく!が「機能性おやつ」のメリットですね。

no166掲載
2013/2/10
 
 青魚に含まれるEPAやDHAが、脂質代謝を改善し心血管系の病気を予防する事や脳機能を改善する事は多くの人が知っています。ところが最近では、EPAやDHAを摂取できる、魚以外の食品の研究が盛んに行われ、新しい結果が次々と発表されています。その食品とは南極オキアミです。南極オキアミは蛋白源としてだけでなく、EPAやDHAなどの有用な脂肪酸がリン脂質に結合した構造で蓄えられている事が注目されています。
 リン脂質は、大豆などの植物にも含まれていますが、残念ながら植物のリン脂質には、EPAやDHAが結合しているものは一つもないのです。つまり、クリル(オキアミ)オイルは、EPA/DHAの今までに知られている働きにリン脂質の働きが加わり、さらに天然の抗酸化物質アスタキサンチンも共存する、非常に優れた機能性オイルなのです。
 例えば、リン脂質であることから吸収性が高く、魚油でとる場合に比べ少量のEPA/DHAで有効とされています。また、高齢で衰えたオスマウスの生殖行動を、若いマウス並みに活性化し、精子の運動性も改善することや、アルコール摂取でおこる酪釘に対し、クリルオイルは酪釘を抑制するという動物実験の結果も報告されています。健常高齢者の脳への酸素動因力を上げ、脳を活性化することも発表されています。オキアミは食事で十分に摂取する機会は少なく、サプリメントとして摂取するのが有効でしょう。

no165掲載
2012/12/10
 
 忘年会シーズンの到来。毎年この時期になるとウエスト周りが気になり始めるという方も多いのでは?
 また最近は、肥満度は正常範囲であるにも拘らず、内臓脂肪の蓄積が顕著な「隠れ肥満」が注目されています。体に蓄えられている脂肪には、皮下脂肪と内臓脂肪の2種類があります。皮下脂肪は、皮膚組織の直下にあり、体温の維持や外界からの衝撃から体を守る役割を担っています。一方、内臓脂肪は、何をしているのでしょうか?
 長い間脂肪細胞は、ただ単に脂肪の貯蔵場所と考えられていました。しかし、近年の研究により、巨大化した脂肪細胞が代謝異常の原因になるホルモンや生理活性物質を分泌している事が明らかになってきたのです。つまり、内臓脂肪の蓄積は、インスリン抵抗性による血糖上昇や血圧上昇などを伴い、メタポリックシンドロームを誘引するというわけです。
 内臓脂肪の蓄積を防ぐには、過剰なカロリー摂取特に糖質や脂質の取りすぎに注意するだけでなく、摂取したカロリーを余すことなく消費するために運動も必要です。運動やカロリー制限によって、内臓脂肪は皮下脂肪よりも優先的に減少します。さらに、同じ脂質でも中性脂肪を下げ、内臓脂肪蓄積を予防する働きのある魚の油EPA(エイコサペンタエン酸)を摂取する事が有効です。肉料理に偏ることなく、青魚の料理やEPAのサプリメントを取り入れて食事のバランスをとり、内臓脂肪を溜め込まない生活を心がけましょう。

no164掲載
2012/11/10
 前回のDHAと並んで、同じく魚の油に含まれるもう一つの重要な成分EPA(エイコサペンタエン酸)についてお話しましょう。
 EPAは、中性脂肪を下げる働きがあり、高脂血症や動脈硬化の患者さんに病院で処方される医薬品として使われています。
 医薬品のEPAは、魚からとれる天然のEPAを原料として、少し化学構造を変えて製造されます。また魚からとれたEPAは、天然のままの形でサプリメントや機能性食品として、一般向けにも販売されています。
 最近の新しい研究で、EPAのサプリメントを摂取すると涙の中にEPAが検出されるようになり、ドライアィの症状が改善される事がわかってきました。
 ドラィアイは、何らかの理由で涙の量が減ったり、成分が変化して角膜が乾燥し、その結果傷や障害を起こす病気です。眼を使うオフィスワーカーでは30%がドライアイと診断されさらにコンタクトレンズ装着によってその率が高まる事がわかっています。
 ドライアイの治療を目薬だけで続けていた患者さんよりも、目薬とEPAのサプリメントを併用したヒトの方が、症状が良くなり眼の炎症も軽くなるという臨床試験結果が報告されたのです。
 恐らく涙中にEPAが増える事で、眼からの水分の蒸散を抑え、さらにEPAの抗炎症作用によって角膜の炎症が改善されるのだろうと推定されています。
 日常生活で眼を酷使する現代人にとって、EPAでドライアイが予防できるのは朗報ではないでしょうか? 鎌倉の海でとれるお魚も積極的に活用しましょう。

no163掲載
2012/10/10
 私が1990年、DHAがマグロやカツオの眼の後ろに豊富に存在することを見出し、有用な脂肪酸として紹介して以来、DHAは頭の働きを良くする成分として有名になりました。しかし、最近の日本人の魚離れに伴って、DHAを知らない人が増えているようです。ここで、もう一度DHAの脳への機能を解説してみましょう。
 2011年に島根大医学部から発表された論文中に、注目すべきデータが示されました。島根県で65歳以上の人を4年間追跡調査し、脳の働きの変化と赤血球中に含まれているDHAの量を調査したところ、4年間で脳の働きが維持或いは改善した人は赤血球中のDHAの量が多く、逆に脳の働きが悪化した人はDHAの量が少なかったという結果です。
 DHAを食べるといろいろな臓器に届き、その臓器を構成する細胞の膜に取り込まれて働きます。DHAを積極的に摂取すると赤血球膜のDHAの量は次第に増え、逆に摂取しないと赤血球の膜からDHAは消えていきます。
 島根大の研究結果は、DHAを積極的に摂取している人は、脳機能の衰えが起こりにくい事を意味しています。DHAは、脳の神経細胞に多く存在する脂肪酸であり、円滑な脳神経活動に重要な役割を果たしています。
 厚生労働省は、DHAとEPA合計1日1gを摂取する事を推奨しています。これを達成するには、例えば鮭の切り身を毎日100g以上摂取しなければなりません。しかし、最近はDHAを配合した飲料や加工食品、サプリメントが販売されています。魚を食べなかった日には、それらを利用して、1日1gの摂取を心がけたいものです。
   
 
 
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