途中に案内板が道案内
鎌倉から江ノ電で一つ目の和田塚駅を降り、由比ガ浜大通りに出るとこの界隈のランドマーク、寺院建築と城郭建築が合体した国の登録有形文化財指定の鎌倉彫寸松堂の建物が目に入る。めざす吉村信彦邸は、この寸松堂の角を笹目通りに折れ、静かな住宅地を10分程歩いた谷戸の奥。観光客でにぎわう長谷界隈とはちがい、のんびり歩いていくと途中、家の玄関先に吉村邸オープンガーデンの案内版がぶら下がっていて、訪れる人をいざなってくれる。
吉村さんが自宅の庭を一般に開放するようになったのは20年前。今年も4月18日の土曜日から29日の水曜日(昭和の日)まで(23日は休み)の11日間を、オープンガーデンとして開放。取材に訪れたのは、春の日差しが暖かく、緑に囲まれた谷戸の風が心地よい4月28日の昼下がりだった。
100年のツツジ 八重キリシマが咲く庭
まず驚くのは、石の門を覆うような緑とパンジー、ビオラなどの鮮やかなコンテナガーデン。
アプローチをくぐるように抜けると、ガーデンパーティーもできるイスとテーブルが置かれた芝生の庭が広がり、満開の赤、ピンク、白のツツジが歓待してくれた。
「祖父がこの地に居を構えたのが大正始めですから100年。私は三代目なんです」と吉村さん。
その頃から植わっている樹木の一つが、濃い朱色の八重キリシマ。庭の一隅にモチツツジや花車とともに石灯籠を囲んで咲き誇り、自由奔放に枝を広げる様はさすが100年の貫録だ。
樹木の下には山野草も
庭の広さは約600坪という。芝生の庭の向こうに、いくつもの小路が見える。まるで秘密の花園に入り込むようなわくわくした気分で歩を進めると、思わず「わっ」。
青空の下に山の緑がせまり、色とりどりの花と緑の庭が広がる開放感。足下には黄色と白い線の小さな花がこんもりと咲いている。名札にリムナンデスとある。その向こうに薄紫のツツジ、ハナグルマ、側に懐かしい井戸用の手押しポンプがある。しばらく歩くと、小さな池も。
「今年はあやめの開花が早いですね」というように、4月だが、もう紫のあやめが咲き揃っていた。
樹木の下には、さまざまな山野草が植えられ、足をとめて見入ってしまう。かと思えば、木の幹に咲くかわいい花に突然出くわす。セッコクを幹に着生させたもので、これも吉村さんの演出。
弁護士をやっている植木屋さん″を自称
「幼い頃から植物に親しみ、我流で、なるべく自然のままを心掛けています。」というように、小さく刈り込んだりはせず、こぼれ種が芽を出せば、なんとか生かし、育ててきた。「手を加えてやると応えてくれ、心がやすらぐ。だから、やめられない。皆がゴルフをやっている時間を私は庭いじりしているということです」と吉村さんは笑う。本職は弁護士さん。だが、自らは弁護士をやっている植木屋″と称し、この広大な庭を他人の手は一切借りず、1人でつくりあげている。手を加えず、植物たちが共存し、自然を謳歌している庭こそが吉村さんのめざす庭なのだ。だから訪れる人も、歩きながら思わぬ発見に出くわし、さらに奥へと進みたくなる。吉村さんにとっては、まさに極上のあそび場なのかもしれない。
訪れる人は 命の洗濯に
オープニングガーデンは春と秋に開催している。口コミで広がり、一時期は一日百人が訪れたこともあったが、ここ数年は数十人ほど。この日を楽しみにしているリピーターも多く、3年前から訪れるようになったという女性は、芝生の庭でひと休みして再び「命の洗濯をさせていただきます」と庭の奥へ。
春は毎年この時期だが、秋は台風シーズンとあって一定しないが、ほぼ9月の彼岸前後。一度来園し署名した人には「オープンガーデンのお知らせ」が届く。先程の女性も「このお知らせが待ち遠しくて」と言っていた。
入園料の100円は、(社)清和会へ寄付される。
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