寄贈された歴史的建造物の多い鎌倉だが、十分に活用されていないのが現状。
なかでも桁違いの豪邸・扇湖山荘を新しい観光のモデルにしようというシンポジウムが開催。
コンセプトは、建物を守り活かす“修復ツーリズム”だという。
鎌倉市に寄贈された 1万4干坪の豪邸
鎌倉山は大正後期から昭和にかけて開発された高級別荘地。なかでも桁違いの規模を誇るのが約1万4千坪の広大な庭園を擁する扇湖山荘。製薬会社「わかもと製薬」で財をなした長尾欣彌・よね夫妻の別邸で、建物は昭和9年、飛騨高山から民家を移築し、日光東照宮を修復した建築家・大江新太郎らが改築、庭は近代日本庭園の先駆者、庭師・小川治兵衛らが手がけた。扇湖山荘の由来も、ここから望む海が扇のように見え、それを湖に見立てつけられたという。
しかしこの豪邸も、戦後わかもと製薬の凋落によって、「長尾美術館」、料亭「鎌倉園」、三和銀行(後に三菱東京UFJ銀行)の研修所と所有者が変転、平成22年鎌倉市に寄贈された。
観る観光から関わり、学ぶ観光へ
すでに5年目。この鎌倉有数の歴史的建造物の活用はいまだ決まっていない。このままでは宝の持ち腐れだ。そこで有志が集まり「扇湖山荘を考える会」が発足、昨年10月、「修復ツーリズム」という考え方を市に提案してきた。
メンバーの一人、井手太一鎌倉市観光協会会長はそれを「見る観光から、市民と一緒に関わって学ぶ観光への転換となるモデルをつくりあげようということ」と説明する。
その具体化に向け、3月28日、扇湖山荘を会場に「オープン!扇湖山荘‥修復ツーリズムによる維持と活用」のシンポジウムが開催された。
ローカルな文化拠点、グローバルな交流拠点
パネリストは井手氏のほか、宮崎緑(千葉商科大教授)、瀧下嘉弘(建築家・日本古民家保存協会理事長、鶴田真由(女優・鎌倉市国際観光親善大使)、竹内昌義(建築家・東北芸術工科大教授)の各氏、進行役に瀬藤康嗣氏(NPO法人ルートカルチャー理事長)が。
まず“考える会”メンバーでもある瀬藤氏から、市に提言した扇湖山荘活用の理念として、@ローカルな文化拠点(鎌倉文化を創造し、未来を担う人材を育てる)とAグローバルな交流拠点(同内外の人々が、鎌倉の文化と文化人に触れ、交流する)を説明。その後、ディスカッションへ。
さまざまな提案が
「一週間前、扇湖山荘の大掃除をしたが、人が入ると家が息づいてきて、喜んでいるのを肌でじた。鎌倉は時代を変えてきたエネルギーのあるまち。その精神を引き継ぎ、体験しながら学ぶ環境は整っている。皆で楽しめる遊び場になればいい。」(鶴田氏)
「何を守り、伝えていくかが大事。建物だけでなく、建物につながる思い、歴史、文化、物語などを総合的に守り、伝えていくことだ。」(宮崎氏)
「1週間前山ノ内の明月荘が全焼した。木の家はすぐ燃えてしまう。火災だけでなく、開発、過疎化などで幾重な木造家屋が日本ではどんどん消えている。この建物は鎌倉はおろか日本の宝。維持管理が大切だ。常駐の管理人が必要。そして、地元の人が愛する場所にしてほしい」(瀧下氏)
「公民連携というが、公はいまお金がない。民間が知恵を出し合い措用するリロケーションのまちづくりが必要。」(竹内氏)
「国もビジツトジャパン(訪日旅行促進)事業を推進しているが、国に提案できるようなプロジェクトができればと思う。ここを新しい観光のプラットホームに」 (井手氏)などさまざまな発言が。
会場から、「修復士が不足している、ここを修復のアカデミアにしたら」などの提案も。
鎌倉市は多数の歴史的建造物があり、その維持・活用は喫緊の課題。扇湖山荘をモデルにその答えを捜そうというのが、今回のシンポジウムの狙い。会では、鎌倉発の新しい観光をめざし、このような会合をこれからも開催していくという。
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