鎌倉生活 2015年 2月10日号 1ページ  
 

  

  課題は市民との二人三脚に
 パネルデイスカツション
「『鎌倉』の世界文化遺産登録を考える」開催

   鎌倉市は神奈川県、横浜市、逗子市とともに「武家の古都・鎌倉」の世界遺産登録をめざし、平成24年1月に推薦書を提出した。しかし、平成25年4月30日のイコモス(国際記念物遺跡会議)勧告が「不記載」という厳しい結果。このイコモスショックからほぼ2年。4県市は世界遺産委員会への推薦を取り下げ、再推薦に向けどのように取り組んでいくのか。イコモス勧告の検証と今後について、1月31日土曜日、鎌倉生涯学習センターで「『鎌倉』の世界文化遺産登録を考える」パネルディスカッションが開催された。

  まず第1部で、鎌倉高校の「かまくら学」研究成果の発表。及川正子さん(2年生)の「北条政子の愛と力〜政子の生きる姿〜」、田中愛望さん(2年生)の「鎌倉彫の歴史から見る伝統工芸品の継承」に会場から大きな拍手が。

  不足していた武家政権を示す物証

  第2部がパネルディスカッション。最初に鎌倉市歴史まちづくり推進担当次長の桝渕規彰さんが、イコモス勧告検証結果を報告した。
「武家の古都・鎌倉」は、日本国全体を武家が支配する出発点となった場所で、三方を山に囲まれ、一方が海に開く要害の地、武家が自然地形に積極的に働きかけ、整備し、社寺や史跡も多く、稀に見る政権所在地の類型として登録を申請したが、結果は不記載。その理由を、
 「イコモスは鎌倉を都市として見ており、その武家政権・都市を示す物証が不足していた」と説明。

  どう活かすパネリストの指摘

  次に4人パネリストを交えてのパネルディスカッションに。
 まず、「武家の古都・鎌倉」推薦書作成委員会に参加した稲葉信子筑波大学大学院教授は、「社寺や史跡など各々の資産が鎌倉時代を構成しているのは間違いないが、ポイントはそれぞれを総合して伝える迫力にある」とする。同じく委員の岡田保良国士舘大学教授は、不記載となったのは世界遺産としての価値が否定されたのではないが、コンセプトを表す「武家の古都・鎌倉」の構成資産、武家を証明するものがどこにあるのかが十分伝わらなかった」という。
 日本の歴史の前に、世界、あるいは人類の歴史においての中世の存在、そのバックグランドの説明が必要だった」と語る。
同じく委員の高橋偵一朗東京大学史料編纂所准教授は、「世界遺産登録は、もう少し足下を固めてからでいいのでは。埋蔵文化財センターや町の歴史が一目でわかるガイダンス施設くらいはつくりましょうと提案。
 本郷和人東京大学史料編纂所教授は、さらに「主人公は市民であって、世界遺産登録を進めるか否かも市民次第。鎌倉の皆さんの声をもっと聞きたい」という。質疑応答で、会場からも「世界遺産をツールにまちづくりをすすめよ」、「切通し、山稜部は重要、安易に壊すな」などの意見が出た。
 再推薦・登録には、市民と共に、一層の努力不可欠ということだ。

 


  文化の『礎』
旧鎌倉図書館の保存・活用を求めて 緊急シンポジウム開催 
図書館とともだち・鎌倉

  御成小学校の門を入るとすぐ右側、木立に囲まれしゃれた木造二階建てが目に入る。1936年(昭和11年)、篤志家・間島弟彦の寄付によって建てられた旧鎌倉町立図書館。中央図書館ができる74年まで、ここは市民の文化のよりどころ。その後、学童保育施設「こどもの家」や教育センター事務局として昨年6月まで使用してきたが、老朽化により解体し、跡地に2階建てのプレハブの市庁舎を建設する計画が持ち上がった。 この由緒ある建物が解体されることを知ったボランティア団体「図書館とともだち・鎌倉」(和田安弘代表)は、市長や市議会議長あてに要望書を提出、署名活動など保存運動を展開してきた。しかし、解体のための補正予算も可決、待ったなしの状況に。そこで、「文化の『礎』」旧図書館を守ろうと、2月1日NPOセンター鎌倉で緊急シンポジウムを開催した。

 歴史的価値は十分 民間も保存に尽力を

  講師の建築家菅孝能さんは、瓦屋根と縦長の窓の和洋折衷2階建てだが書架は3層になって、意匠も凝らされており、保存の価値は十分。「中央図書館の分館としてこちらに近代資料室を移すのもいい。先人に倣い、行政に頼るだけでなく、民間も資金を集め、保存、改修の取り組むべき」と提案。

  歴史まちづくりに 欠かせない建物

   歴史研究家で、世界遺産登録推進協議会の広報部長の内海恒雄さんは、鎌倉国宝館建設や英勝寺山門保存等、間島氏の数多くの業績を紹介、「浮光明寺、寿福寺から海岸に抜けるこの通りこそ古代、中世、近世、近代と続くまさに歴史まちづくりにふさわしい」と語る。御用邸のあった御成小学校、旧図書館も欠かせないと力説。
 参加者からも、旧図書館保存活用への提案が相次ぐ。市民不在の行政は許されないという熱い声とともに、シンポジウム参加者一同による「旧図書館の取り壊しはいったん中止し、旧図書館の歴史的・文化的意義について検証を行い、ひいては「歴史まちづくり」のあり方について考える市民や専門家を交えた議論の場を設けることを強く要望します」というアピール文(案)が和田会長によって読み上げられた。2月中に、市民の投稿による「旧鎌倉図書館と私」の文集、陳情書とともに議会に提出されることに。

 
 
 
 

  

  八幡宮境内の
県立近代美術館鎌倉館が解体される!?

  「鎌近(かまきん)」の愛称で親しまれている神奈川県立近代美術館鎌倉館が解体の危機にある。
「鎌近」は、1951年鶴岡八幡宮の一画に誕生した日本初の公立近代美術館で、設計者は名建築家の坂倉準三。鶴岡八幡宮境内に建つ白い箱型、その姿が源平池に映る景色は、まさに一枚の絵のよう。しかし、建物の老朽化が進み、土地を借りている八幡宮との契約も来年度末で切れる。その際、更地にして返還する契約となっている。
 県立近代美術館は、鎌倉別館、葉山館があるものの、「あの場所に、あの建物を」と願うファンは多い。2013年秋には日本建築家協会などが県に要望書を提出、シンポジウムを開催するなど、保存を求める声は強まるばかり。だが、タイムリミットは迫るばかり。


  北鎌倉駅沿いの小さなトンネル
保存か、開削(かいさく)かで対立続く

  鎌倉の玄関といわれる北鎌倉。横須賀線が北鎌倉駅に近ずくと空気もさわやかになる。
そして、ホームに降りた観光客がアッと驚くのが、下りフォームの中間に寄り添うように存在する緑の洞門と呼ばれる小さなトンネル。
 このトンネルを巡り、「安全確保か、景観維持か」で住民が対立。
 生活道路・通学通園道路を訴える住民は、安全対策のため洞門の解体、補強などを要請。
 一方保存側は、この洞門は「かまくら景観百選」、「関東の駅百選」に選ばれた北鎌倉駅の周辺の景観の一つ、円覚寺の結界をなし、鎌倉ガーネットと呼ばれる地層を見ることができる文化財と訴える。
 これに市の手続き上の不備や不信が重なり、トンネルの出口はなかなか見えてこないのが現状だが……。

 
 

   

 
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