鎌倉生活 2010年7月10日号 1ページ  
 

 戦後すぐ建築された広大な庭園と屋敷の北鎌倉・明月荘が今月末で閉鎖に。県から鎌倉市が借り受け、学習施設として市民に提供されてきた。貴重な施設ということで、保存維持への活動にも力が入る。

 老朽化が進み閉鎖へ 

  あじさいの季節、北鎌倉は年間を通し、最も観光客でにぎわう。
 しかし、そのにぎわいも明月院まで。道なりに左に折れ、坂道をゆっくりのぼると、明月谷と呼ばれるこのあたりは、谷戸の風が気持ち良い。ほぽのぼりきったところに、緑に包まれた明月荘が。
 敷地は約2600u、純和風の建物は、約240uの母屋と別棟の茶室。
 この地はもともと明月院のものだったが、大正14年に売却され、昭和21年に事業家・石橋又義氏が購入、住宅が建てられた。ところが42年に売買され、昭和46年、所有者は、叶_奈川県開発公社に移り、55年から鎌倉市が市民の学習施設として県から借り受け、サークル活動や研修などに利用されてきた。
 ところが、この施設は今年の7月31日で閉鎖されるという。老朽化が進み大規模修繕が必要だが、財政難から予算がつかず、安全性の面から閉鎖せざるをえなくなったのだ。

 体験を通して建物の良さを知る 

  いつもは静かな明月荘。しかし、7月4日の日曜日はゆかた姿の女性や子どもたちが集い、明るい声が谷戸に響く。歴史や自然、生活文化、家屋、庭園、人等、まちの資源を使い続け、伝え続けて、まちづくりに貢献しようという活動をしている「神奈川まちづかい塾」の呼びかけで集まった人たちである。
 代表の小林紘子さんは、横浜市で伝統文化の継承、普及活動を行っており「神奈川まちづかい塾」は、横浜市都筑区で古家の家主が茶室を区民に開放するという話がきっかけでこの4月に誕生した。「建物に触れて、何かをやることで建物の良さがわかり、伝統文化の素晴らしさもわかるんです」。
 こうした活動は地域密着型でなければということで、鎌倉プロジェクトが発足し、明月荘の維持、活用にも取組んできた。
「建物は使い続けないとたちまち傷んでしまう。市民も協力するので、保存維持する方法を考えてほしいと、県や市にも要望しているんです」と小林さん。昨年7月、明月荘を訪れた時は、笹や雑草が庭全体を覆い、茶室にまで蔦が入り込んでいた。そこで、メンバーは草刈り、大掃除を行い、元の姿に戻そうと頑張ってきた。その後、毎月1回、庭の草刈り、掃除、排水溝の整備などを行っている。この日も午前中は、作業に汗を流し午後の体験してみよう「畳文化」〜大人も子供も一緒に〜″という催しへ。

 登録文化財として残してほしい 

  まず、建築家・有里公徳さんが、主室を教室にこの邸宅の生い立ち、現状、建物の構造、建築的な特徴などをやさしく解説。次に、小林さんの指導で、歩き方、あいさつの仕方など畳の部屋での作法の体験。子供達も神妙な面持ちで、作法を学習。しかし、庭に出ると、バッタを追いかけたりと大はしゃぎ。
 蹲踞(つくばい)で手を濯ぎ、露地を通って茶室に至る、茶の世界のお話に、お母さんたちも興味深々。再び和室に戻って、道端の草花を活ける花寄せを体験、茶の湯へと…。
 「初めてのことばかりで楽しいですね」とは、小学生の娘と参加したお母さんの感想だ。
 「このままでは、畳文化は忘れ去られてしまいます。楽しみながら日本の作法を体験することが、文化の継承につながると思うんですよ。その意味でも、明月荘は建物と庭が一体化した本当の邸。登録文化財としてぜひ残してほしいのです」と小林さん。一人でも多くの参加を望んでいる。

  ■「神奈川まちづかい塾」 TEL045−336−1636(小林さん)

 
 
 
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事業仕分けの対象となった入浴助成券やデイ銭湯はおとしよりの健康維持、交流の場として定着している。その楽しみが事業仕分けでなくなる危機が。

おとしよりに親しまれている事業なのに

 「このままでは鎌倉から銭湯がなくなってしまいます」と、鎌倉市公衆浴場組合組合長の小野田将夫さんは語気を強める。というのも、鎌倉市の事業仕分け対象事業30に高齢者入浴助成事業、デイ銭湯事業、公衆浴場設備整備費補助金の3事業が仕分け対象とされたためだ。
 高齢者入浴助成事業というのは、高齢者入浴助成券のことで、市が65歳以上の市民を対象に、1回につき150円、1年間48枚を支給している。銭湯の利用料金は現在450円。年間48枚ということは、ほぼ週1回の利用という計算。つまり、この券があれば1回300円で銭湯を利用できる。「それに加え、入浴助成券利用者にはわれわれお風呂屋さんも100円サービスしており、おとしよりは200円でご利用いただいているんです。それなのに、事業仕分け資料には、われわれが300円をもらっていると書かれている」。
 もう一つの、デイ銭湯事業というのは、健康チェック、入浴、レクリエーションなど、生きがいと健康づくりを公衆浴場(銭湯)で提供しようというもので平成13年度からスタートした。対象は60歳以上。1回に月200円の助成がつく。実施施設は、材木座の清水湯で毎週火、水曜日に実施されている。
 実は、この事業、当初は公衆浴場組合が平成11年4月から、当時6カ所あった銭湯(現在は5カ所)のうち4カ所で1年間の限定で実施していた。1日のメニューは健康チェック、歌やゲームなどのレクリエーション、入浴、昼食、リハビリ体操、マッサージ指導など。「おとしよりは体が弱くなると閉じこもりがちになり、寝たきりになってしまう。銭湯で皆さんと交流し、くつろいで、健康チェックも行えば、元気なおとしよりが増えるのではということで始めたのです」。
 これが好評で、その後この事業は市に移管され、社会福祉協議会が運営を、銭湯は浴場提供とサービス面で協力する形で今日まで続いてきた。
 こうした事業を、仕分けるというのだから、浴場組合としては我慢ならないというわけだ。

 銭湯友の会も署名活動展開 

 高齢化が進み、高齢者が元気で老後を過ごすには、まず、閉じこもり、寝たきりを防ぐこと。公衆浴場は、地の利(居件地に近い)、釜の利(豊富な湯を提供)、空間の利 (浴場や脱衣所など広い空間)という3つの利がある。健康維持、コミュニケーションの場として最適。しかも、家に風呂があっても、一人住まいや老夫婦だけでは、非効率。ガスの消し忘れや転倒の危険もある。銭湯の活用は医療費の削減にもつながるはずだ。それでなくても銭湯の経営は苦しい。銭湯友の会(高瀬達美代表)も、今回の事業仕分け対象になったことに危機感を持ち、市民に向け「高齢者入浴助成券事業及びデイ銭湯事業の存続を求める署名のお願い」活動を展開している。すでに約8千人の署名を集め、また事業仕分け傍聴も呼びかけてきた。
 7月10日の事業仕分け結果がどうなったか。組合は、7月15日に市長と面会の予定。その際に、署名を手渡す方針だ。
「市の財政が厳しいことは承知しており、応分の負担は致し方ない。銭湯はおとしよりにとってささやかないこいの場なんです」と小野田さん。
 お風呂屋さんの灯を消さないためにも、前向きに活用する方向で事業の存続を検討してほしい。

 
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