鎌倉生活 2009年5月10日号 1ページ  
 
県立フラワーセンター大船植物園は、花の季節を迎え来園者が最も多い時期。
その入口に4月初めから「金槐和歌集散策マップ」が置かれるようになった。
来園者には、もう一つの楽しみ方が。

   フラワーセンターで「金槐和歌集」散策マップ配布 

「金槐和歌集」といえば鎌倉幕府第3代将軍源実朝の歌集。このマップの表面には、「フラワーセンター大船植物園、もうひとつの楽しみ 源実朝を知っていますか」と題し、武人としてよりも文人として名を残した生涯を素描、その作品は、きっと「サラダ記念日」のような衝撃を京の都に与えはずと実朝を紹介。
  そして、歌集に登場する多くの植物をこのフラワーセンター大船植物園で見ることができる。このマップ片手に、歌に詠まれた草木を訪ね歩いてはいかがということだ。

  三日会創立60周年の記念事業に 

 正岡子規が「万葉集」と並び激賞した「金槐和歌集」。だが、「万葉集」にちなんだ万葉公園は全国あちこちにあって、憩いの場として親しまれているのに対し、金槐和歌集にちなんだ施設がない。
「実朝は、鎌倉周辺から外に出ることはなかったこともある。だからこそこの鎌倉に金槐和歌苑″をつくりたいと思うのです」と語るのは、大阪府立大学名誉教授の金子努さん。

  この話が金子さんも所属する「鎌倉三日会」(昭和26年に発足。市民の政策提言団体)に伝わると、それなら再来年迎える同会創立60周年の記念事業にしようと話が発展、これに「古都鎌倉を愛する会」も、「凛とした品格ある鎌倉づくりがわれわれの活動なんですが、金槐和歌集に出てくる草木を、その和歌とともにお見せできる場があるといい。四季折々の草花を愛でるもののふの心意気が皆さんに伝わるとうれしいですね」(会長・中村公司さん)と呼応して、共同事業として活動することとなった。
  その第一歩が、フラワーセンターでの「金槐和歌集散策マップ」配布ということなのだ。

 「金槐和歌集」は鎌倉文化のシンボル

 鎌倉はいま「武士の古都・鎌倉」の世界遺産登録に向け取り組んでいる。
「武家が初めてつくった政権都市鎌倉に生まれ育った文化が、禅の文化、お茶の文化、和歌の文化で、そのシンボルが実朝であり、『金槐和歌集』なのです」 (金子さん)。
  金槐というのは、鎌倉を意味する鎌の金偏、槐は植物のエンジュのことで、大臣の意。つまり鎌倉右大臣実朝を表す。
  その歌集には春・夏・秋・冬・賀・恋・旅・雑に分かれた663首が収載されている。
  調査によれば、「金槐和歌集」に出てくる植物は57種。フラワーセンターには、このうち50種が植栽されているそうで、散策マップには、金槐和歌集に登場する植物のうちお種が歌とともに紹介されている。
  そのいくつかピックアップしてみると…。
  フラワーセンター入口左手の事務所脇の日本庭園(吹合の庭)には主木としてエンジュ(槐)の一種、シダレエンジュが池にかぶさるように枝を広げている。
  そして、今の季節を歌った歌というと−−、
五月雨の露もまだひぬ奥山の 真木の葉がくれ鳴くほととぎす=槙
ふるさとの池の藤波誰植えて むかし忘れぬかたみなるらむ=藤
わが恋は深山の松に這う蔦の 繁きを人の問はずぞありける=蔦
小夜ふけて蓮の浮葉の露のうへに 玉とみるまでやどる月影=蓮
  地名とも関連する歌には、
うちなびき春さり来れば久木生うる 片山かげに鶯ぞ鳴く=久木(逗子に地名が残る)、アカメガシワなどが。

 緑の文化遺産になれば 

 2013年は「金槐和歌集」成立800年という記念の年。金槐和歌コースを巡り、四季に合わせ、実朝が歌った植物を探し歩くのも楽しいものだ。
  とはいっても、フラワーセンターは鎌倉市にあるが県の施設、しかももともと青苗センターとして設立された経緯もあって金槐和歌苑″設立はそう簡単ではない。これまで鎌倉三日会、古都鎌倉を愛する会ともに、県庁やセンターなど関係者に対し、ねぼり強く「金槐和歌苑」設立の意義を訴えてきた。
  「ようやくその第一歩が実現しました。県や市、センター、そして来園者が共に喜べるような緑の文化遺産となればうれしいですね」(金子さん)。
  初夏には蝶形の黄白色の花をつけるという槐の下で実朝の歌に思いを馳せる、そんな風流な場があると楽しいのだが…。


 
   
 
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