鎌倉生活 2009年3月10日号 1ページ  
 
富士山10題のうちの1枚

清楚
ふかさわ冬まつり!

   職人歴45年の2代目表具師 

 北鎌倉駅から鎌倉街道を大船方面に歩いて300bほど、十王堂橋のたもとに神武堂表具店がある。
 昭和6年の創業、店名の由来は、開業の日が「神武天皇祭」(4月3日)だったことからつけられたとか。ガラス戸越しに、父親の跡を継いで45年、2代目鈴木正行さんと3代目を目指す息子の朝人さんの黙々と働く姿が眼に入る。
  表具とは、絵画や書に紙や布で裏打ちをして補強し、作品(本紙という)を引き立てる装飾を施して、掛軸、額、画帖に仕立てたり、襖や屏風に仕上げることをいう。表具師あるいは経師屋、大経師と名乗る人もいる。鈴木さんは国家検定表具一級技能士の資格を持ち、鎌倉市表具師会の会長を歴任したベテランの表具職人。これまで、個人はもちろんのこと、鎌倉市内の「日蓮宗大宝寺寺宝の掛軸20点」、「浄土宗安養院寺宝の掛軸」、「真言宗宝善院寺宝の掛軸、額装」や横浜の「曹洞宗正翁寺寺宝の釈迦浬欒図掛軸」など、寺社の依頼を受け、多数の古美術修復を行ってきた。

  持ち込まれる書画の中には虫が喰って穴が開いたり、破れたり、シミが付いたものもある。表具師は紙の種類、質、厚みなどを吟味し、作品を傷めないように裏打ちし補修していく。「印刷物とは違い、この世に一つしかないものばかり、歴史的に価値の高い物、その人にとって思い出深い物などを扱いますから、失敗が許されない。それは気を使います。でも、あんなにポロポロだったものがこんなに美しくなってと喜ばれた時は、本当によかったなと思いますね」と鈴木さん。

  書も絵も描くがこれも仕事のうち 

  とはいっても表装はあくまでも脇役。主役は書や画(日本画)なのだ。主役を引き立たせるには、いい作品を見る目を挙っ努力が欠かせない。とくに書には楷書、行書、草書、隷書、叢書などさまざまな書体がある。これを読むのは至難の業。
「経験を積むと読めるようにはなるのですが、それでも勉強が必要。そこで、書道塾で15年ほど習いました」。
  依頼する人にも読めない字が多い。とくに署名の字が難しいという。それを読んで、江戸時代の書家や有名な政治家の書だったことがわかって驚かれたことも何度かある。
  絵も好きで、独学で日本画を描いていた。ところが10年前、地域の北鎌倉まちづくり協議会主催の匠展が開かれ、鈴木さんも表装作品を出品、この時日本画家の佐藤平八さんも出品しており、教室を開設する話を聞いて、早速入門し指導を受けることにした。日本画の技法を教わることで、絵もメキメキ上達。「書が読めることによって意味がわかる。それによって着物(表具)も決まります。絵も同じ。ですから、広い意味で、絵も書も自分の仕事の一つだと思っているんです。」 

  職人の技に関心を もってもらえれば 

  今回の作品展は、自ら描いた日本画、集めた書画を掛軸、額装、屏風、画帖に仕上げた作品が亜点、師匠の佐藤平八さんの作品が2点飾られる。
主役(本紙)と脇役(表装)ともに鈴木さんが創作した、まさに「鈴木正行の世界」展である。「絵と表装技術の両方を見てもらえればと思います。
 とくに、われわれ職人の手仕事はものづくりの日本文化を支える大切な仕事。なのに、後継者も少なくなっており、技術の伝承は厳しい状況にあります。日本の寺院にある和の心″は癒の空間であり、美を追求する匠の技に関心をもってもらえるそんな機会になればうれしいのですが。」と鈴木さんは、「生涯一度」という今回の個展開催を熱く語った。

問合せ●TEL46−3559神武堂表具店

 
   
 
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